イギル(ИГИЛ)

ロシア連邦トゥバ共和国の伝統的な二弦の擦弦楽器。弓で弾く。巨大なスプーン状の一本の木で出来ている。表面には子羊や子ヤギの皮が貼られている。元々、弦は馬の毛を束ねて作られていたが切れやすいという理由などから現在は繊維の束で出来ている。頭部には馬など動物の彫刻がされているが、古いイギルにはそれらの彫刻がない。調弦は5度で行われる事が多い。

例えばCの基音でホーメイをする場合、内弦をCにし外弦をその五度上のGにする。現在はイギルを弾く時、馬頭琴と同じように両腿に挟み、固定して構えるが、古くは楽器の先が尖っていて、地面に突き刺して固定したり、先の尖っていない形の場合は“イディク”と呼ばれるトゥバ固有の皮のブーツの中に楽器の先端を突っ込み、固定して弾いていた。弓は常に両弦を鳴らす。現在運指にも様々なテクニックがあり、現在のイギル奏者のほとんとは内弦を左手の爪で弾くが、指の腹や親指一本だけで弾くのが伝統的なスタイルだと年配のホーメイジたちは爪で弾くことを良しとしない。特徴的なのは左指を弦に軽く当てることにより発生するフラジオレッドを好んで使う技法。風のようなかすれた音がとても心地よい。